新人司法書士が知っておくべきEAJ問題とは

仕事

こんにちは、しろです。

今回は、新人司法書士が知っておくべきEAJ問題 というテーマで書きました。

簡単にいうとキックバック(紹介料)を渡して仕事を囲っている司法書士法人があり、業界の腫れ物になっているというお話です。

業界人でなければ「紹介料の何がダメなのか?」と思うかもしれません。

今回はそうした方にも分かるよう、EAJの紹介料の仕組みや問題点、裁判例などを解説していきます。(進展があればその都度追記していきます。)

この問題が新人司法書士や業界全体にどのように影響するかも簡単にまとめていますので、ぜひご参考ください。

EAJとは

EAJとは、株式会社エスクローエージェントジャパンの略称です。

ざっくり言うと、ネット銀行と司法書士を結び付けるマッチングサービスを行い、司法書士から実質的な紹介料を得ています。

司法書士は、誰でもが登録できるわけではありません。

問題点は、実質的な紹介料のシステム

EAJの問題点は、司法書士から紹介料(キックバック)を得るビジネスであることです。

司法書士は、その職務の公益性から、相手方に紹介料を渡して仕事を得るといった行為が禁止されています。

根拠として

  • 司法書士施行規則26条(依頼誘致の禁止)
  • 司法書士倫理13条2項(不当誘致等)
  • その他司法書士会の会則や規則

に違反するかが争点です。

この点について、複数の司法書士から日本司法書士会連合会への照会があり、違反するという内容で回答が出ております。

後ほど照会します。

紹介料の仕組み

ユーザーが、特定のネット銀行で住宅ローンや借換を契約すると、EAJを通して司法書士に依頼が入ります。

その後、登記が完了してユーザーから司法書士に報酬が支払われると、その一部から『システム利用料』という名目でEAJに金銭が支払われます。

例)抵当権報酬9万円 内訳 司法書士6万円 EAJ3万円
※登録免許税、実費等は別です。

初めは、ネット銀行と司法書士の間に株式会社EAJがシステムを提供するという形で割り込んでおりました。

しかし、日本司法書士会連合会から違反である趣旨の通達が出されると、司法書士法人EAJという司法書士法人を立ち上げ、復委任という建前で逃げようとしているのが現在の状況です。

違反でないと主張するならばわざわざ司法書士法人を間に入れて復委任とする必要はないはずです。

つまり、本人らも違反であると理解しながら、こうした行為を行っていると考えるのが自然でしょう。

なお、筆者界隈でも、EAJのシステムを利用する司法書士法人が「司法書士法人EAJとやりとりをした」という話を聞いたことはなく、復委任の実体があるかは疑問です。
(復委任があるという事例があれば、ぜひご一報くださいませ。)

司法書士法人EAJの実体

興味のある方は、ぜひ司法書士法人EAJのホームページをご確認ください。

トップページしかありません。(2024年5月現在)

業務内容も、司法書士法3条をそのまま転載しただけの簡単な作りになっています。

問い合わせページや料金表もありません。

私でも2~3時間あれば作れそうです。

シンプルでとても分かりやすいですね。

EAJの問題点

改めて、EAJの諸問題を分けて解説します。

不当誘致により特定の司法書士が仕事を囲っている

最も大きな問題が不当誘致です。

特定の司法書士法人が、紹介料を支払うことで仕事を独占することは望ましくありません。

ネット銀行としては司法書士の信頼性・迅速性を確保したい需要があるため、特定の大きな法人に依頼したいという考えは自然だと思います。紹介料の仕組みさえなければ

司法書士業務を、民間のビジネスに利用されている

前記したように、EAJ案件についての報酬例は、

抵当権設定につき
ユーザーへ請求する司法書士報酬9万円 うち司法書士6万円、EAJ3万円
※登録免許税・実費は別です

ざっくりこんな感じのようです(一例です)。

問題は『司法書士報酬』として依頼者へ請求していることと、その中の3分の1~法人によっては半分程度がEAJに支払われていることでしょう。

言い換えると、国家資格が必要である登記業務の報酬であるにも関わらず、資格なき一般企業が相当な金額を受け取っている、という状態です。

司法書士において紹介料(キックバック)が禁止されるのは、登記という公益的な責務を平等に市民に提供するためのはずです。

司法書士同士による値下げ合戦が基本的に行われないのもこうした理由からです。

紹介料は司法書士報酬に上乗せされている

EAJへの紹介料は、ユーザー(登記依頼者)への司法書士報酬に上乗せされ、その中からEAJが受け取っています。

抵当権設定であれば、司法書士報酬としては(登録免許税・実費を抜きにして)通常4~5万円が相場であるところ、7万円~10万円の請求が見受けられます。

このあたり「民間の商売感覚なのか」「公益性があり不当誘致が禁止される業務なのか」に違いがあり、争われる原因なのでしょう。

サービスである以上、エンドユーザーに手数料負担がかかるのは当然と言えば当然ですが、お金の流れが間違えていると思います。

EAJがネット銀行に対して司法書士探しの代行サービスを行っているというのなら、ユーザーに対しては銀行が手数料として請求し、EAJとネット銀行の間で利益調整すべきでしょう。

業界が安く見られる

問題は続きます。

上記のように紹介料によって仕事を囲われると、業界全体が安く見られます。

EAJのシステムは全ての司法書士が登録して利用できるものではなく(できるとしてもやりませんが)個別契約によります。 

司法書士法人によっては、上層部からは売上が低いと指摘され、EAJへの紹介料を見直すよう指示されることもあるようです。

そもそも住宅ローンや借換の申し込みがなければ仕事は来ません。

EAJの仕事を無理に増やそうとするなら、紹介料の支払いを増額することで、登録している法人同士間の価格競争に勝つ必要が出てしまいます。

新人司法書士が潰される

EAJを扱っている事務所に新人司法書士が就職すると、以下のような状況になりがちです。

  • 初めは違反だと気づかず、あとになって紹介料が支払われている事実を知る。
  • その後は自分の倫理観や、同期からの目線が気になりだす。
  • 同じ仕事ばかりさせられる。スキルが身につかない。
  • 司法書士報酬が安い。給料が上がるわけではない。
  • 依頼者から報酬が高いと言われると、説明に困る。
  • 倫理違反か生活のためか、が摩擦になりストレスがたまる。

新人司法書士の倫理観は、とてもしっかりしています。
研修を受けたばかりですし、理想を持って業界に入った人も多いためです。

平和産業と言われることもあり、まさか大手の就職先が、利益優先で倫理違反をしているなんて思いません

内部にいれば、EAJの仕事も普通の仕事のように見えるでしょう。

そこから紹介料をEAJに支払っていることなんて、わざわざ先輩は説明しませんから。

任された仕事をようやく覚え、自分で売上をもっとあげたいと意気込んできたころに、EAJに紹介料が支払われていることを知ります。

しかしEAJの仕事の売り上げは、意図して上げようと思っても上がりません。
EAJのお仕事は、依頼された分をこなすシステムであり、営業をかけても案件が増えるわけではないためです。

新人『同じパターンの繰り返しで、スキルもアップしない。違う仕事がやりたい。』

そんな中、代表や上層部から「売上が低い」と指摘が入ります。

そうするとEAJに紹介料の額について交渉しなければならなくなります。倫理違反と知りながら。

こうなってくると、新人は辞めるか、潰されるか、倫理違反を自分の中に留めたまま仕事を続けるかの3択です。

しかも『EAJの利用およびキックバックは自己判断で行いました』という趣旨の念書を書かせる事務所まで現れたそうです。

EAJを取り扱っている司法書士法人の内部は、こんな感じになりがちです。

『ワンパターンな業務でもいい』『倫理観なんて気にしない、みんなやってる』という司法書士には合うのかもしれません。

代表や上層部以外は、EAJからの仕事を嫌っていることが多いのです。

(念のためですが、こうした事情を知らずにEAJにお勤め中の方が悪い訳ではないです。悪いのは仕組みです。)


EAJを取り扱っている司法書士法人を経営する方、新人がすぐに辞めることが多くありませんか?
理由は新人さんが弱いからですか??
退職者が、本当の原因を言ってくれることなんてあんまりないですよ。

新人司法書士の方は、就職活動の際に『EAJを取り扱っていますか?』と尋ねると、身を守ることに繋がるかもしれません。

私の後輩にも、面接時にはEAJを伏せられ、入社後に知ってすぐ退所した司法書士もいます。

各所の反応

EAJ問題について、各所の反応、見解は以下のとおりです。

日本司法書士会連合会の見解

 東京司法書士会からの回答としては、以下のとおり、不当誘致にあたると認めています。

株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(以下「EAJ」という。)に対し
て司法書士から支払われる「システム利用料」が,司法書士が受託する業務に応じて
支払われるものであるなら,その司法書士の行為は貴見のとおりと考えます。当該司
法書士は,EAJが介することによって業務の依頼を受けているのであって,EAJ
に登録していなければ,依頼を受けることがないのであるなら,「システム利用料」
は実質的に業務依頼に対する対価と見られるからです。

日本司法書士会連合会
日司連常発第 105 号
令和2年(2020 年)8月 12 日 より引用

 前述のとおり、この通達を受けたところ司法書士法人EAJが立ち上げられ、現在は復委任というスキームで、めくらましとして利用されています。

EAJの基本スキームを詳しくご覧になりたい方は、司法書士法人関根事務所様のページもご参考くださいませ。通達の全文もございます。

EAJ登録司法書士の違反懲戒処分リスクの注意通達
毎日が新鮮な発見 司法書士法人関根事務所

EAJ関連の裁判例 

2024年5月1日付控訴され、進行中の裁判があります。

詳しくは、以下の原告『みのだ社労士事務所』(原告)様のHPをご覧ください。

金融機関(ネット銀行)による司法書士指定について - みのだ社労士FP事務所
はじめに 私蓑田は、ネッ

本裁判は、独占禁止法違反ではないことを理由に、第一審は棄却となっています。
争点が少し違った形になってしまったようです。

しかし事実認定中にキックバックの事実が晒されるという、司法書士界隈にとっては非常に興味深い判決になっています。

今後が注目ですね。

各司法書士の反応

基本的に「キックバックにあたるため断った」という事務所や、「EAJ指定の司法書士より安く受けます」とホームページに明記している事務所も見られます。

詳しくは『EAJ 司法書士 google検索』で検索し、各事務所様のHPをご覧になさってみてください。

私見)今後あるべき姿は?

住宅ローンユーザーとしては、ネット銀行でローンを組むメリットはあります

やはり金利が安く、例えばイオン銀行では、イオンでのお買い物の際に常時割引といった特典もついてきます(2024年5月現在)。

一般の方としては多少登記費用が上がっても、金利が安ければ良いという方も多いでしょう。

司法書士とその他の会社の争いなんて、そっちでやってくれという程度のものかと思います。

ネット銀行目線としても、日本全国どこでもサービスを提供したいと思うでしょうし、信頼できる司法書士を常に対応できる状態で全国に確保しておきたいという需要もうなずけます。

そのため、特定の大きい法人に仕事が集まるのはしょうがない部分もあると個人的には思います。

司法書士探しのコストも抑えたいとなると、登記関連を全て外注したい需要があるのも当然でしょう。

しかし、現状のシステムではお金や仕事の流れが「いびつ」になっています。スジがずれているのです。

ユーザーからの手数料を銀行側に乗せることはできないのか

個人的に、現状を改善する一つの提案として『ユーザーへ請求する手数料を、司法書士報酬ではなく銀行手数料の方に乗せる』だけで大きく変わると思っています。

その手数料収入があれば、各ネット銀行が(EAJを利用せずに)司法書士との連携を行う部門を設立するくらいは充分可能でしょう。現にEAJは手数料収入で動いているわけですから。

少なくとも、司法書士からではなく銀行からEAJへ手数料を支払う形にすれば、司法書士のキックバック問題は起こりません。

銀行としても、ユーザーから受け取った手数料の一部をEAJに支払うよう調整すれば、売り上げにもなり一石二鳥でしょう。

銀行の集客プロモーションとしては、手数料を安く見せておきたいのも理解できます。
しかしユーザー目線としても、ネット銀行はやはり金利の安さが魅力です。
手数料が2~3万円万円上がったところで金利の安さで回収できるため、集客に大きく影響するとは思えません。

これができないとすれば、理由は以下の2パターン考えられます。

・銀行からもEAJへ相当額の手数料が支払われていて、今さら変更を言いにくい
・反対に、銀行から手数料を取らない内容で契約してある

のどちらかでしょう。
しかし民間の契約でお金が動かないこともないでしょうから、前者の可能性の方が高いかもしれません。

どちらにしろ、ユーザー負担および銀行負担が変わらない旨現状は司法書士倫理違反である旨を銀行に説明し手数料の流れをユーザー → 銀行 → EAJ と変更するよう働きかければよいのではないでしょうか?

おそらくネット銀行にお勤めの方は司法書士の倫理違反に関与しているなんて知らない人が多いでしょうから、コンプラに問題があると知れば改善されるかもしれません。

この方法について法的に問題があるか、その他の解決方法があるか、読者の方にぜひご意見を伺いたいです。→お問い合わせ

おわりに

現状は、司法書士報酬を通じてユーザーにEAJへの紹介料が上乗せされています

個人的には、微力ながらこうした問題を書き記し、ネット銀行様や登記依頼者様から理解を得られるような活動を続けていこうと思っています。

いち司法書士として、これから合格して理想を持って仕事をする後輩司法書士のためにも。

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